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大阪地方裁判所 平成8年(ワ)5899号 判決 1997年8月29日

原告

片山岳二

右訴訟代理人弁護士

原田紀敏

被告

平山運送株式会社

右代表者代表取締役

平山洋文

右訴訟代理人弁護士

宇多民夫

主文

一  被告は、原告に対し、二三万五七六四円を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分しその九を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

一  被告が原告に対し、平成八年五月一〇日付けでした解雇処分が無効であることを確認する。

二  原告が、被告に対し、雇用契約上の権利を有することを確認する。

三  被告は、原告に対し、平成八年五月一一日以降毎月末日限り一か月三五万四一九六円の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は、被告の負担とする。

五  第三項につき仮執行宣言

第二事案の概要

一  事案の要旨

本件は、被告から諭旨解雇及び懲戒(制裁)解雇の通知を受けた原告が、右解雇は解雇事由がなく不当労働行為であって無効であるとして、解雇無効確認及び従業員たる地位の確認並に解雇の翌日である平成八年五月一一日以降毎月末日限り解雇時の給与額である一か月三五万四一九六円の割合による賃金の支払を求めた事案である。

二  争いのない事実

1  原告は、昭和六二年ころ、運送事業等を目的とする株式会社である被告に雇用され、タンクローリー乗務員として勤務していた。

2  原告は、平成元年七月に結成された平山運送労働組合の初代委員長となり、その後、平山運送労働組合が全日本港湾労働組合関西地方大阪支部(以下「全港湾大阪支部」という)に加盟して平山運送分会になったことから、同分会の分会長となった。

3  被告の就業規則四七条は、「従業員が次の各号に該当するとき、譴責、減給、出勤停止、諭旨解雇のいずれかを科する」と定めており、同条三号ないし六号には次のように規定されている。

三号 正当な理由なく無断欠勤したとき

四号 正当な理由なくしばしば遅刻、早退及び欠勤し、勤務不良のとき

五号 勤務に関する手続その他の手続を怠り、又は偽りの届出をしたとき

六号 職務上の指示命令に従わないとき

被告の就業規則四六条一項五号及び六号は次のように定めている。

五号 諭旨解雇 退職願を提出するよう諭旨勧告し退職させる。

六号 制裁解雇 予告期間を設けず、また、退職金全額を支給せず解雇する。前号の諭旨解雇に応じない場合は制裁解雇とする。

4  被告は、平成八年四月五日、同日付け書面において、原告に諭旨解雇事由がある旨主張し、全港湾大阪支部執行委員長及び平山運送分会分会長宛に原告の「勤務怠慢による諭旨解雇処分に関する件」について団交を申し入れた。

5  被告は、平成八年五月七日、同日付け通知書により、原告に対し、同月一〇日付けで諭旨解雇処分にする旨の通知をし、退職願の提出を勧告した。

しかし、原告が、退職願を提出しなかったことから、被告は、原告に対し、同月三一日、同日付け懲戒解雇通知書をもって、同月一〇日付けで懲戒解雇する旨の通知をした。

6  原告の解雇時の給与は、月額三五万四一九六円であり、解雇直前の三か月間の平均賃金は、月額三四万八〇三四円であった。

三  被告の主張

1  解雇事由

原告には、次のとおり就業規則四七条三号ないし六号に該当する諭旨解雇事由があるので前記争いのない事実のとおりの経過で諭旨解雇したが、原告が退職願を提出しなかったので、就業規則四六条一項六号により制裁(懲戒)解雇した。

(一) 無断欠勤

被告においては、勤務終業時間の午後四時三〇分、翌日の配車について、運行配車指示表(配車掲示板)に、車号、乗務員名、積み込み場所、配送場所(早出・納品時間指定等)が記載され、乗務員はこれを必ず確認して退社することになっており、原告は、これを確認しているにもかかわらず、事前に欠勤届を出さずに無断欠勤した。その回数は、他の乗務員(ほとんど無断欠勤することはない)と比較して異常に多く、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までに二八日もあった。なお、原告は欠勤を連絡してくることもあったが、いずれも始業時間後である午前九時又は一〇時ころになって連絡してくるため、被告の業務に支障をきたしていた。

(二) 遅刻及び始業時の朝礼点呼を受けないこと

右期間中、原告には、遅刻が三六日、朝礼点呼を受けないことが六六日あった。

(三) 連絡先、電話番号の届出拒否

原告は、被告が要求しても連絡先、電話番号を知らせなかったため、原告に連絡が付かず、前記無断欠勤とあいまって業務に支障をきたした。

(四) 長距離運行の乗務拒否

原告は、体調が悪いと言っては長距離運行を拒否し続け、被告が診断書を提出するようにと再三要求しても提出しなかった。

(五) 注意勧告に対する不服従

被告は、以上の点につき、原告に対し、たびたび注意勧告をしたが、原告は、全く反省する態度を示さず、かえって注意をする上司に反抗的態度をとった。

2  不当労働行為の有無について

被告は、原告が当時全港湾大阪支部平山運送分会に所属していた関係上、平成八年四月五日、原告を諭旨解雇処分にすることについて、全港湾大阪支部執行委員長及び平山運送分会分会長宛に団交を申し入れたが、原告が、同年五月二日に同労働組合を脱退したため、団交が開かれなかった。

被告は、全港湾大阪支部ないし平山運送分会から本件解雇が不当労働行為であるとの主張は受けておらず、本件解雇は、原告の労働組合活動とは全く関係がない。

四  原告の主張

1  解雇事由について

本件解雇は、次のとおり解雇事由が存在しないにもかかわらずなされたものであって、無効である。

(一) 無断欠勤について

被告では、通常乗務員が欠勤する場合その当日の始業時間までに電話等で連絡し、また、後日に有給届を提出して良いことが慣行となっていた。原告も、右慣行に従い、欠勤する場合事前に電話連絡をしており、これまで問題とされることはなかった。

(二) 遅刻について

遅刻は、阪神大震災の影響であり、その都度被告に連絡をして了解を得ていた。また、被告は、原告が始発のバスを利用しても定時にしか出勤できない事情を知りながら早出出勤を強要してきたことがある。

(三) 始業時の朝礼点呼を受けないことについて

原告は、午前七時二八分に被告に到着し、二階のロッカールームで着替えをし、直ちに朝礼点呼に加わっており、これまで被告から何ら問題とされなかった。

(四) 長距離運行の乗務拒否について

長距離運行をしていなかったのは、体調が悪かったためであり、診断書の提出を要求されたのは平成八年三月二八日になってからであり、原告が四月初めに提出する旨返答すると、被告配車係は納得していた。

2  不当労働行為

原告は、労働組合の存在しなかった被告において労働組合の結成に尽力し、平成元年七月に結成された平山運送労働組合の初代委員長となり、さらに同労働組合が全港湾大阪支部に加盟して平山運送分会になったことから、同分会の分会長となった。

被告は、労働組合を嫌悪し、労働組合員の切り崩し工作を行った。その結果、労働組合員が脱退するという事態も生じている。

原告が解雇されたのも労働組合弱体化をねらった不当労働行為の一環であり、解雇権の濫用であって無効である。

第三争点に対する判断

一  解雇事由について

1  無断欠勤について

証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告の就業規則二二条(欠勤手続)は、

「従業員が傷病、その他やむを得ない事由により欠勤しようとするときは、あらかじめ所属長にその期日と事由とを明記する届出書により届出て許可を受けなければならない。但し、やむを得ない事由により事前の書面による届出ができないときは、電話等の方法で事前に連絡するよう努め、事後速やかに所定の届出書により届出なければならない。

前項の手続を怠ったときは無断欠勤として取り扱う」

と定めている。

(二) 被告においては、始業は午前七時三〇分、終業が午後四時三〇分で、終業時間までに乗務員から翌日の欠勤届が出ない場合には、翌日の配車が割り当てられ、運行配車指示表(配車掲示板)に、車号、乗務員名、積み込み場所、配送場所(早出・納品時間指定等)が記載され、乗務員はこれを確認して退社することとなっていた。

(三) 被告における無断欠勤の意味については、そもそも被告の原告以外の一九名の乗務員は有給休暇を使用する以外に欠勤することがほとんどないことから、被告内においてその意味について曖昧な部分があるが、原告は、一年間に有給一四・五日、欠勤三五・五日の合計五〇日休みを取得しており、前日の終業時間までに欠勤届を出さずに、欠勤することが、平成七年四月一日から平成八年三月三一日までに二八日あり、そのうち、約八日、欠勤当日の始業時間午前七時三〇分を過ぎても欠勤の連絡をしなかったことがあって、原告の休みの取り方は異常であった。

(四) 右のように原告が配車の割当を受けた後急に欠勤すると、被告は、他の従業員を代役に立てざるを得ず、配車係が代役を務めたことが七、八回、専務が代役を努めたことが、二、三回あり、被告の業務の支障になった。

(五) 被告が、原告に対し、欠勤する場合には事前に連絡するよう注意すると、原告は、寝ているから電話できない旨の答弁をして態度を改めようとはしなかった。

右のとおり認めることができる。

なお、原告は、欠勤する場合事前に電話連絡をしており、これまで問題とされることはなかった旨主張し、(書証略)、原告本人は、これに沿うが、(人証略)に照らして、信用することができず、原告の右主張は採用できない。

右認定事実によれば、被告における無断欠勤の意味については、被告内においてその意味について曖昧な部分があるが、被告の就業規則及び配車体制おいては、前日の終業時間までに欠勤届を出さずに欠勤するのが許されるのはやむを得ない事由のある場合に限られると考えられるところ、原告には欠勤が異常に多く、前日の終業時間までに欠勤届を出さずに欠勤することが、一年間に二八日あり、そのうち、約八日は当日の就業時間までに連絡せず明らかに無断欠勤であるというのであるから、就業規則四七条三号ないし五号に該当するといわざるを得ない。

2  遅刻及び始業時の朝礼点呼を受けないことについて

証拠(略)及び弁論の全趣旨によれば、原告には、一年間に遅刻が三六日、朝礼点呼を受けないことが六六日あったことを認めることができ、これは、就業規則四七条四号ないし六号に該当するということができる。

これに対し、原告は、遅刻は、阪神大震災の影響であり、その都度被告に連絡をして了解を得ていたこと、また、被告は、原告が始発のバスを利用しても定時にしか出勤できない事情を知りながら早出出勤を強要してきたことがあること、始業時の朝礼点呼には、原告は、午前七時二八分に被告に到着し、二階のロッカールームで着替えをし、直ちに点呼に加わっており、これまで被告から何ら問題とされなかったことを主張し、(書証略)、原告本人はこれに沿う。しかし、(書証略)、原告本人は、阪神大震災の影響が一年以上継続したとは考えられないこと、(証拠略)に照らして、にわかに信用することができず、原告の右主張は採用できない。

3  連絡先、電話番号の届出拒否について

(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、被告が要求しても連絡先、雷話番号を知らせなかったため、原告に連絡が付かず、前記無断欠勤とあいまって業務に支障をきたしたことを認めることができ、これは、就業規則四七条五号及び六号に該当するということができる。

4  長距離運行の乗務拒否について

(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、体調が悪いと言っては長距離運行を拒否し続け、被告が平成七年一二月一八日に診断書の提出を勧告したにもかかわらず、原告はこれを提出しなかったことを認めることができ、これは、就業規則四七条四号ないし六号に該当するということができる。

これに対して、原告は、長距離運行をしていなかったのは、体調が悪かったためであり、診断書の提出を要求されたのは平成八年三月二八日になってからであり、原告が四月初めに提出する旨返答すると、被告配車係は納得していた旨主張するが、これに沿う(書証略)、原告本人は、(証拠略)に照らして、にわかに信用することができず、原告の右主張は採用することができない。

5  注意勧告に対する不服従について

(証拠略)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告に対し、勤務態度についてたびたび注意勧告をしたが、原告は、全く反省する態度を示さず、かえって注意をする上司に反抗的態度をとったことを認めることができ、これは、就業規則四七条六号に該当するということができる。

6  以上によれば、原告の勤務状況及び態度は、諭旨解雇事由に該当するといわざるを得ないものと認められる。

二  不当労働行為について

前記争いのない事実、証拠(略)弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

1  原告は、平成元年七月に結成された平山運送労働組合の初代委員長となり、その後、平山運送労働組合が全港湾大阪支部に加盟して平山運送分会になったことから、平成三年九月まで同分会の分会長を務めた。

2  被告は、平成八年四月五日、同日付け書面において、原告に諭旨解雇事由がある旨主張し、全港湾大阪支部執行委員長及び平山運送分会分会長宛に原告の「勤務怠慢による諭旨解雇処分に関する件」について団交を申し入れた。

3  原告は、全港湾大阪支部に対し、被告に右諭旨解雇処分が不当労働行為に当たる旨申し入れて被告と争うよう求めたが、全港湾大阪支部は、原告の勤務状況等から原告が解雇されても仕方がなく、争っても負けるかもしれないとして、被告に自主退社にできないかという交渉をする方針を立てた。原告がこれに不満を示すと、全港湾大阪支部は、原告に対し、争うのならば全港湾の名前を使わず、原告が自分でするように告げたので、原告は全港湾大阪支部と被告が団交する前に労働組合を脱退して個人として争うこととした。原告は平成八年五月二日付けで平山運送分会に脱退届を出し、右脱退届は全港湾大阪支部には同月八日に受け付けられた。

4  被告は、全港湾大阪支部と打ち合わせ済みとして、平成八年五月七日、同日付け通知書により、原告に対し、同月一〇日付けで諭旨解雇処分にする旨の通知をし、退職願の提出を勧告したが、後に、同月一〇日付けで右全港湾大阪支部と打ち合わせ済みとした部分については撤回した。

5  原告が右諭旨解雇処分にかかわらず退職願を提出しなかったことから、就業規則四六条一項六号を根拠に、被告は、原告に対し、平成八年五月三一日、同日付け懲戒解雇通知書をもって、同月一〇日付けで懲戒解雇する旨の通知をした。

右のとおり認められる。

原告は、本件解雇が労働組合の弱体化をねらった不当労働行為の一環であり、解雇権濫用であって無効である旨主張するが、前記一認定のとおり、原告には解雇事由が認められ、右認定事実によれば、労働組合自体原告の解雇がやむを得ないと判断したため、原告は労働組合を脱退したのであるから、本件解雇は、組合活動とは関係が無く、不当労働行為ないし解雇権濫用に当たるとは認めることができない。

三  したがって、原告の勤務状況及び態度は、就業規則四七条三号ないし六号に規定された諭旨解雇事由に該当し、その程度に鑑みれば、原告が退職勧告に応じないことから制裁(懲戒)解雇もやむを得ないものと認められる。

就業規則四六条一項五号及び六号の文言によれば、原告と被告との雇用関係は、制裁(懲戒)解雇の意思表示のあった平成八年五月三一日に終了したものと解されるので、原告は、被告に対して、同月一一日から同月三一日までの賃金請求権を有し、右期間の賃金は、原告の解雇直前の三か月間の平均賃金月額である三四万八〇三四円を、三一日で除し、これに二一日を乗じた二三万五七六四円とするのが相当である。

四  以上によれば、原告の請求は、賃金二三万五七六四円の支払を求める限度で理由があるのでこれを認容し、その余の請求は、いずれも理由がないので棄却する。

(裁判官 西﨑健児)

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